個人で作品を販売するクリエイターが利用規約を整備すべき理由

BOOTH・note・SkebなどのプラットフォームやSNSで作品を販売しているクリエイターのみなさんは、商品説明欄に利用条件をしっかり書いていますか?
個人利用に限るという条件、転売禁止、改変は可だが再配布は不可など、こうした記述はトラブルを防ぐために有効な情報です。購入者が一定の条件を認識した状態で購入するという意味では、記載がないよりはるかに良い状態といえます。

ただ、商品説明欄に書かれた一文が、購入者との間で法的に有効な合意として機能しているかというと、それは別の問題になります。文章として存在することと、拘束力があることには結構な差があります。
この記事では、販売者が独自に利用規約などのルールを整備することの実務的な意味などについて整理します。

プラットフォームの規約は、販売者と購入者のルールを決めてくれない

プラットフォームの規約が定めているのは、運営会社とユーザーの関係

BOOTH・note・Skebなどのプラットフォームが定める利用規約は、それぞれの運営会社とユーザー(販売者・購入者の双方)の関係を規定したものです。たとえばBOOTHであればピクシブ株式会社とユーザーの関係がその対象です。「この作品を購入後にどこまで使えるか」という販売者固有の条件は、プラットフォーム規約には含まれていません。

プラットフォームは取引の場所を提供しているのであり、個々の販売条件を代わりに設定してくれるわけではありません。以降の話の前提として、まずここを確認しておきます。

明示されていないルールで購入者を拘束することは難しい

利用条件が明示されていない状態では、購入者が「どこまで使えるか」を自己判断するしかなくなります。よって、誤解だけでなく、意図的な拡大解釈の両方が起きうる状況です。

事後に、そういう使い方を禁止するとは聞いていなかったと言われた場合、販売者側から明示的な合意の存在を示すことは容易ではありません。常識的に考えればわかるはずという判断は、個々人の”常識”が合致しているとは限りませんので、取引の根拠としては弱いと言わざるを得ません。

個人作品販売でよく起きるトラブルの3つのパターン

パターン1 — 商用利用の可否をめぐる認識のズレ

個人利用を前提に販売したBGM素材が、購入者のYouTubeチャンネルの収益動画や企業プロモーションに使われるケースは、音楽素材の販売では特に起きやすいトラブルだといえます。

販売者の側では商用利用可と書いていなければ不可という認識であっても、購入者の側では禁止と明示されていなければOKと受け取るケースがあります。双方が善意であってもギャップは埋まらないため、利用条件を許諾範囲と禁止範囲の両面から明記することが、この種の誤解を減らす実務的な対応になります。

パターン2 — 3DモデルとVRChatアバター、改変と再配布の問題

各種クリエイタープラットフォームの中でも、特にBOOTHで頻繁に問題になると思われる領域の一つです。
購入した3Dモデルを改変してVRChatのワールドに設置する、あるいは改変後のアバターを別のユーザーに配布するといったケースでは、改変許可と改変後の再配布許可が別の許諾であることを購入者が認識していないことがあります。

さらに、二次創作物を素材として販売する場合には、原著作物の著作権者という、販売者・購入者以外の関係者が絡みます。販売者自身が二次創作の範囲内でしか使用を許諾できない立場であることを規約上に明記しておかないと、購入したのだから自由に使えるという解釈が生まれるリスクが高まります。「再配布禁止」という一行よりも、どういう状態での配布を禁止しているのかを具体的に書く方が認識の齟齬を低減できます。

パターン3 — 返金・キャンセル対応の境界線

プラットフォームによっては、ダウンロード商品のキャンセル・返金処理に対応していない場合があります。BOOTHもその一例で、公式ポリシーとしてダウンロード商品の返金処理をプラットフォーム側では行わないことを明確にしています。利用するサービスがどのような対応をしているかは、事前に確認しておくことが重要です。

ただし、それは「返金トラブルが起きない」ということとは別の話です。購入者がDMやメールで直接「返金してほしい」と連絡してくるケースは実際に起こります。「使えなかった」「思っていた内容と違った」という申告に対して、プラットフォームが処理できない以上、販売者が個別に対応を判断しなければならない状況が生まれます。

返金に関する条項を規約で定める際に関係してくるのが消費者契約法です。同法は「事業者」と「消費者」の間の契約に適用される法律で、返金を一切認めないといった免責条項の有効性に影響します。ただし、同法はすべての個人販売者に当てはまるわけではありません。個人の場合、継続的・反復的に利益を目的として販売を行っているかどうかが事業者かどうかの判断基準になります。趣味の延長で作品を数点販売しているケースと、ショップとして継続的に運営しているケースでは法的な位置づけが異なる可能性があり、返金免責をどう表現するかも変わってきます。自分が事業者に該当するかどうかを踏まえた上で規約の表現を検討することが重要で、判断に迷う場合は専門家への相談をお勧めします。その免責条項、無効かも?利用規約と消費者契約法の基礎知識も参考にしてみてください。

販売者が整備しておきたい利用規約の主な要素

許諾範囲と禁止事項——「何がOKか」も書く

個人利用のみ可、商用利用は要相談、二次創作可(ただし成人向け不可)など、許諾の区分を具体的に整理することが大切です。
利用規約というと、禁止事項の列挙が重要だと考えがちですが、このくらいはOKという記述も併記することで、購入者の自己確認を助け、問い合わせの件数を減らす効果もあります。

このように、条件の明示は販売者を守るためだけでなく、購入者の利便性にも働きます。

著作権の帰属と利用ライセンスの区別

著作権譲渡の意思がある場合を除き、作品の著作権は販売後も販売者に帰属する旨を明記しておくことが重要です。それにより、購入者に与えるのは作品を利用する権利(ライセンス)であり、その範囲内でのみ利用できるということを明確にします。

デジタルデータは購入者の手元に残るという性質上、「買ったのだから自由に使える」という誤解が生まれやすいです。この区別を規約として明示しておくことで、購入者の認識を購入前に整えることができます。個人が販売・配布するサービスにおける同種の問題は、個人開発で陥る利用規約の”落とし穴”とは?でも整理していますので、参考にしてみてください。

返金・キャンセルポリシー

利用しているプラットフォームがダウンロード商品の返金・キャンセル処理に対応していない場合、その旨を利用規約に明示する必要性は高くありませんが、念を押すために記載しているという場合もあると思います。

ただし、購入者から直接連絡が来た場合の対応方針についても明示しておくと安心です。ファイルが破損していた場合など、販売者として対応する例外的な条件があれば、あわせて記載します。

返金免責の表現については、先述のとおり消費者契約法の適用が自身の販売形態によって変わるため、事業者に該当するかどうかを確認した上で規約の表現を検討することをお勧めします。

許諾範囲の書き方について相談したい、自分の販売形態に合っているか確認したいという場合は、まずご相談ください。販売するコンテンツの種類・想定される利用シーンを整理した上で、整備すべき内容をご提案します。利用規約の作成・レビューのサービス概要はこちらをご覧ください。

利用規約を購入者との合意として機能させるために

購入前に目に入る場所への掲載が前提

商品ページやショップトップへの掲載と、ご購入をもって本規約に同意したものとみなすという一文の組み合わせが基本的な対応です。

この「事前に表示しておく」という手順は、民法の定型約款(第548条の2)の規定に沿ったものです。
定型約款とは、不特定多数の者を相手方とする取引において、その内容を画一的に定めるために準備された条項の総体のことです。商品説明欄に書いた一文がそのまま定型約款として認められるかは不明確ですが、規約であることがわかるように記した上で「本規約を契約内容とする旨」を明示した場合には、この規定の適用が期待できます。
クリエイターズマーケットや個人ショップで不特定多数の購入者に対して同一の条件で作品を販売するケースは、定型取引に該当する可能性があります。定型取引において要件を満たした形で規約を表示していた場合、購入者が個別の条項をすべて読んでいなくても、その内容に合意したものとみなされます。これが「利用規約を整備して購入前に表示しておく」ことの法的な根拠の一つです。

ただし、定型約款であっても「相手方(購入者)の利益を一方的に害すると認められる条項」は、合意したとみなされない(同条第2項)という限界があります。どんな場合であっても一切返金に応じないといった規程など、購入者に著しく不利な内容の条項は、定型約款としての効力を主張できない場合があります。

購入手続きの後に初めて規約が提示される状態では、合意の有効性に疑問が生じるおそれがあります。また、単に文章を用意すれば良いというものではなく、購入前に確実に目に入る場所に置くことが原則です。

規約の存在を記録として残す

規約本文は商品ページの商品説明文の一部として含める形でも原則としては問題ありません。一般的には、商品説明文と一緒に書いてある方が目に付くとは思います。
一方で、商品の削除やプラットフォーム側の仕様変更などにより、その商品説明文が見られない状態になってしまうと、後からそんな規約は知らなかったと主張されるリスクが高まります。
そのため、利用規約本文は別の場所に記載し、商品説明文の中には利用規約のURLと最終更新日を明示しておくことが望ましいです。

書く内容と提示の方法

冒頭で確認した「商品説明欄の一文が合意として機能しているか」という問いに答えるには、二つの要素を整える必要があります。
一つは「何を書くか」、つまり商用利用・改変・返金について、想定されるトラブルを踏まえた上で具体的に整理することです。もう一つは「どう提示するか」、つまり定型約款としての要件を満たすように、購入前に目に入る場所に置き、みなし同意となるように整備することです。この二つがそろって初めて、購入者との合意として機能する状態に近づきます。

たとえば、「個人利用のみ可」と一行書いてある状態と、商用利用の可否・改変と再配布の区別・返金への対応方針をそれぞれ考えた上で書いてある状態では、購入者との認識のズレが起きる可能性がまったく異なります。一方、民法の規定により、みなし合意が否定されるような状況では、たとえルールを定めているつもりでも拘束力が生じません。

この記事で挙げた3つのトラブルパターン(商用利用の認識のズレ、改変と再配布の境界、返金対応)は、「何も書いていない」場合と「書いてあるが曖昧だった」場合の両方で発生します。考えずに書いた一文と、想定されるトラブルを踏まえて書いた条件には、大きな差が生じてきます。

まとめ

利用規約は、トラブルが起きた後の盾というよりも、購入前の合意の根拠を整えるものとして機能します。購入者にとっても、事前に条件が明示されていれば「どこまで使えるか」を自分で確認できるため、購入の判断がしやすくなります。

販売数が増えるほど、また作品の単価や影響範囲が広がるほど、規約を何も設定しなかった場合と利用規約として整備した場合の差は大きくなります。早い段階で整備しておく方が、後から見直す手間が少なくて済みます。ネット上のテンプレートを流用する場合のリスクについては、無料テンプレート利用規約のリスクとは?でも整理していますので、合わせてご参照ください。

利用規約の作成・内容のレビューについては、スポットでのご依頼にも対応しています。「何を決めておけばいいか相談したい」という段階からでも構いません。販売形態とコンテンツの種類をお知らせいただければ、必要な内容を整理した上でご提案します。お気軽にお問い合わせください。

サービスに合った規約と運用を整えませんか

利用規約・プライバシーポリシーは、作るだけでは足りません。
サービスの仕様、データの取り扱い、外部サービスの利用状況、実際の導線や運用に合わせて整えておくことで、公開前の手戻りや運用開始後の対応負担を減らしやすくなります。

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