その利用規約作成、非弁行為かも?制作会社が知らない法的リスク

SaaSやウェブサイト、ウェブシステムなどの作成を制作会社に委託した際に、制作会社側から「利用規約も作成しておきますね」などと言われたことはありませんか?

システム開発やデザインなどと一緒に、利用規約もまとめて作ってもらえるなら、委託した側としては手間が省けて便利そうに思えます。

ただ、その「利用規約作成」を、ウェブ制作会社が実行すること自体に法的な問題はないのでしょうか?

実は、他人の依頼を受けて報酬を得て契約書や利用規約などを作成する行為に関しては、内容によっては弁護士法または行政書士法に違反する行為と見なされるリスクがあります。

そこで、ウェブまわりの制作の現場で見落とされがちな「利用規約作成の合法性」について、あらためて整理してみます。

利用規約は「法的文書」である

まず前提として確認しておきたいのは、利用規約は契約内容を定める法的な文書であると考えられる、という点です。

単なる案内文やマニュアルではなく、サービス提供者とユーザーとの間の権利義務、その他の契約の内容を定めるものであり、実質的に契約書と変わりありません

つまり、契約書と同様に、規約の内容が一方的にユーザーに不利だったり、法令に反していた場合には無効になる可能性があるほか、規定内容によっては法的に不明確・不安定な状態を生んでしまう可能性もあります。

たとえば、以下のようなケースが典型です。

  • 「当社は一切の責任を負いません」と記載していても、消費者契約法によってその条項が無効とされる
  • 前払い方式のポイント制を導入しているにも関わらず、資金決済法上の義務を満たしていない
  • ユーザーが投稿するコンテンツの著作権に関する扱いが不明確なまま放置されている

このようなリスクを回避しながら利用規約を作成するには、個別のサービス内容と関連する法律を踏まえた法的判断が必要不可欠です。

よって、まったく法的判断を要することなく利用規約を作成することは困難であるため、利用規約は法的な文書であると考えることができます。

「業として」作成できるのは、法律で定められた者だけ

では、制作会社が報酬を得て利用規約を作成する行為は、法的にどう評価されるのでしょうか。

この点については、弁護士法と行政書士法の規定が関係します。

弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

行政書士法
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。

つまり、利用規約の作成を業として行うには、弁護士または行政書士の資格が必要であり、それ以外の者が報酬を得て作成することは、違法であると判断される可能性が高いといえます。

制作会社が「ついでに」「テンプレートベースで」と軽い気持ちで規約を作成してしまうと、それが非弁行為・行政書士法違反に該当する可能性があるのです。

なお、たとえ名目上は「無償で提供」であっても、制作受託に関する他の名目において実質的に利用規約作成に対する報酬を得ているような状況であれば、「業として」利用規約作成を請け負っていると認められる可能性はあります。

また、「無料でテンプレートを提供し、実際の作成はクライアントが行う」という形の場合、そこまでであれば制作会社は文章を作成していないため、弁護士法や行政書士法には違反しませんが、クライアントからの具体的な内容に関する問い合わせに回答する行為は、違法性が考えられます。

制作会社にとってもリスクになり得る

制作会社側としては、あくまでサービスの一環として、テンプレートを探してきて作成しただけ、と考えているかもしれません。

しかし、そのようなケースであっても、もし作成した規約が法的に無効だった場合や、何らかの損害が発生した場合、制作会社が責任を問われる可能性も十分あります。

また、依頼者に対して「合法な規約を提供できる」と誤信させた場合には、説明義務違反や損害賠償請求のリスクすら生じるおそれがあります。

だからこそ、ウェブサービスに詳しい弁護士や行政書士と適切に連携することが、制作会社自身を守るうえでも重要なのです。

体裁だけではない、プロセスも問われる時代

今の時代、テンプレートの充実や生成AIによって誰が作ってもそれなりの体裁になるのが、利用規約という文書の難しさです。
しかし、そこに含まれる「法的判断」や「責任の所在」、そして「実際のサービス内容との適合性」などに関しては、資格を持たない者が扱えるものではなく、また作成に関する十分な知識・経験が必要となります。

規約の完成度の高さよりも、その作成プロセスが合法であるかどうかも、コンプライアンス重視の現代においては決して無視できません。

制作会社の立場としては、無理に自社で作成しようとするのではなく、弁護士や行政書士とパートナーシップを築くことが、結果的に顧客への最善のサービス提供につながるはずです。