マッチングサイトの利用規約作成における重要ポイントと注意点

マッチングサイトは、ユーザー同士の交流や契約、サービスの提供などを仲介する性質上、他の一般的なWebサービスとは異なる構造的なリスクを持っています。運営者が直接取引や交渉に関与しないにもかかわらず、トラブルが発生した際には「場を提供した者」として責任を問われかねません。こうしたリスクに適切に対応するため、利用規約にはマッチング特有の配慮が必要です。

以下では、実務上とくに重要となる条項や記載例を交えて解説していきます。

ユーザー間トラブルに対する運営の関与範囲

マッチングサイトにおいて最も懸念されるのが、ユーザー同士のトラブルです。

金銭、サービス、恋愛、個人情報など、性質を問わずさまざまな問題が発生し得ます。このとき、運営者がどのような立場を取るのかを規約上で明示しておかなければ、不要な責任を負うおそれがあります。

たとえば、次のような条文が有効です。

第○条(免責)
本サービスにおいてユーザー間で発生した紛争、交渉、契約、その他一切の取引関係について、当社は関与いたしません。ユーザーは自己の責任においてこれを処理するものとします。」

ただし、通報や違反行為があった場合に対応する余地も残しておくと柔軟な運用ができます。

ただし、当社が必要と判断した場合は、当該ユーザーのアカウントの停止、投稿の削除、その他適切な措置を講じることできるものとします。

外部連絡手段の制限とリスク管理

マッチングサービスでは、メッセージ機能を通じて直接連絡を取れる仕組みがある一方で、連絡先の交換や外部SNSへ誘導されてしまう場合も少なくありません。
特に、サービス外でのやりとりが継続されてしまうと、サービス利用者の減少にも繋がるほか、故意に課金タイミングを回避するなど悪用されるケースも少なくありません。

恋愛目的のサービスでは出会い系業者による営業活動、ビジネス系ではプラットフォーム外での契約誘導、スキルシェアでは運営を通さない直接依頼など、場外での接触は信頼や安全性を損なう要因になるだけでなく、運営者の売上げにも影響を与えます。

こうした事態を防ぐために、外部連絡手段の交換を制限し、その理由とリスクを丁寧に規約に記載しておくことが重要です。

たとえば、次のような文言が考えられます。

第○条(外部誘導の禁止)
ユーザーは、本サービスの範囲を超えて、他のユーザーに対し直接的に連絡先情報(電話番号、メールアドレス、SNSアカウント、その他外部サービスへのリンクを含みます)を提供し、またはこれを要求してはなりません。

加えて、誘導的なメッセージや勧誘行為が実施された場合の対応などにも踏み込んでおくと効果的です。

第○条(アカウント停止等)
当社は、ユーザーが他のユーザーに対して、本サービス外でのやり取り、取引、契約等を目的とした誘導行為を行ったと判断した場合、当該ユーザーの利用停止、アカウント削除、その他の措置を行うことができるものとします。

このように、運営者が許容する連絡手段の範囲と、そこから外れた行動の責任所在を明確にしておくことが、プラットフォームの安全運営には不可欠です。

「マッチング成立」の定義と成果報酬の根拠づけ

マッチング成立時に手数料や成功報酬を設定するサービスの場合、何をもって「成立」とみなすかを明確にしなければ、報酬や利用料の支払いを巡るトラブルにつながるおそれがあります。

特にマッチング時点で課金が発生するタイプの場合は、ユーザーの考えと運営者の考えに相違が生じてしまった場合が危険です。

そのため、「マッチング成立」についてしっかり定義を設けることが大切です。

第○条(マッチング成立)
マッチングの成立とは、本サービス上において両当事者がメッセージ機能を通じて初回の連絡を完了し、互いに以後の交渉を自ら進める意思表示を行った時点をいいます。

投稿内容やレビューの統制と権利関係

マッチングサービスでは、多くの場合マッチングのために必要な情報である「ユーザーのプロフィール文や写真」を投稿できる機能が備わっています。他にも、ユーザーが投稿するレビューやクチコミなどを投稿できるサービスもあります。

このように投稿機能を有するサービスにおいては、ユーザーが投稿するテキストや写真などに関しては、誹謗中傷、虚偽記載、著作権侵害など、さまざまな法的リスクを含んでいます
そこで、あらかじめ投稿内容の取り扱い方針を明示し、削除権限や責任の所在を明らかにしておく必要があります。

たとえば次のように規定できます。

第○条(投稿の削除)
ユーザーは、他のユーザーに対する不適切な表現、公序良俗に反する内容、第三者の権利を侵害する内容等を本サービス上に投稿してはなりません。当社は、当該内容が不適切であると判断した場合、当該投稿を予告なく削除できるものとします。

また、著作権の帰属や運営者による利用範囲も整理しておくとトラブルを回避しやすくなります。

第○条(知的財産権)
ユーザーが本サービスに投稿した文章、画像等のコンテンツに関する著作権は、投稿時点で第三者に帰属していたものを除き、当該ユーザーに帰属します。ただし、当社は、本サービスの運営、改善、広報目的において、ユーザーの承諾なく当該コンテンツを無償で利用することができるものとします。

アカウントの多重登録と利用制限

なりすましや同一人物による多重アカウント登録は、マッチングサービスの信頼性を損なうおそれがありますので注意が必要です。
特に、恋愛、採用、投資系のサービスでは、こうした行為が詐欺や誤認につながりやすく、またユーザー間のトラブルに発展しやすいため、事前の制限が必要です。

第○条(なりすましの禁止)
ユーザーは、当社の許可なく複数のアカウントを作成してはなりません。また、アカウントの譲渡、貸与、共有は一切禁止とします。当社が同一人物による複数登録と判断した場合、当社はそのすべてまたは当社が指定する任意のアカウントをユーザーの承諾なく停止または削除できるものとします。

利用規約はサービスの”設計図”

マッチングサイトにおける利用規約は、単なる利用条件の列挙ではなく、サービスの構造とリスクを言語化する「設計図」そのものといえます。
ユーザー間の自由な交流を前提としながらも、安全性や信頼性を確保するには、運営者として「何を許し」「どこに責任を負わないか」を明確に示さなければなりません。

見落とされた一文が、トラブル時の責任を決定づけることもありますので、そう考えると、利用規約は「万一のときに機能するかどうか」を事前に十分に確認し、把握しておくことが大切になります。

これからマッチングサービスを立ち上げる方、あるいは既に運営中で不安を感じている方は、
規約が本当に今の運営実態に即しているか、専門的な視点から一度チェックしてみることをおすすめします。