「SaaSはスピードが命!とりあえず動くサービスをリリースして、まずは使ってもらえればOK」
「個人でやってるし、細かいルールなんていらないんじゃない?」
そんなふうに考えて、利用規約を用意せずに各種SaaSやウェブサービス、アプリを公開してしまう個人開発者は少なくありません。
しかし、利用規約がないサービスは、ユーザーと提供者の間に“契約”が存在しない状態とも言え、トラブルの種が見つかったり、あるいは実際にトラブルが起きたときに、運営者側が不利な立場に立たされることがあります。
この記事では、「利用規約なしで公開するとどうなるのか?」をテーマに、実際に起こりうる5つの典型的なトラブルを紹介します。
トラブル①:ユーザーの迷惑行為に対して対応できない
利用規約がない場合、ユーザーの違反行為に対して強い行動をとることができないという問題があります。
たとえば以下のような場合です。
- スパム投稿や荒らし行為
- 他人の著作物を無断でアップロード
- 他ユーザーへの誹謗中傷やハラスメント行為
こうした行為が行われた場合、本来は利用規約に「禁止事項」として定め、それに基づいて問題の投稿を削除したり、悪質な場合はアカウント停止措置を取るのが望ましいといえます。
しかし、規約がない場合は、「どこまでが許容され、どこからがアウトなのか」が不明確です。
この状態で運営者独自の判断で何らかの対応をとった場合に、利用者としては想定外の不当な対応だとしてトラブルに発展してしまうおそれがあります。
トラブル②:責任範囲が曖昧で損害賠償を求められるリスク
システムエラーやサービスの不具合、データの消失などが発生した際、利用規約があれば、
「サービスは現状有姿で提供され、内容の正確性・完全性は保証されない」
「サービス利用によって生じた損害について、当社は責任を負わない」
といった免責条項を設けることで、一定の範囲で提供者の責任を制限することができます。
しかし、規約が存在しない場合、ユーザーが被った損害について全額の責任を問われるリスクがあります。とくに有料サービスやユーザー投稿型のサービス・アプリでは、
- 「課金したのに使えない」
- 「投稿したデータが消えた」
といったクレームが金銭トラブルに発展するおそれがあります。
※「責任を負わない」という条項は、内容によっては消費者契約法などの法律に違反する場合もありますので注意が必要です。
トラブル③:ユーザーが権利侵害をしても提供者が責任を問われる可能性
ユーザーが投稿することができるサービスの場合、投稿されたコンテンツ(テキスト、画像、動画など)が第三者の著作権や肖像権を侵害していた場合、規約がないと運営者も責任を問われかねません。
そのため利用規約では、
「ユーザーが投稿したコンテンツについては、ユーザー自身が必要な権利を有しているものとし、第三者との間で問題が発生した場合はユーザーの責任で解決する」
といった責任分離の条項が規定される場合も少なくありません。
こうした条文がないと、権利者から「なぜこの投稿を放置したのか」と問われ、サイト管理者が共同責任を問われる可能性もゼロではありません。
トラブル④:規約なしでの変更・終了が不信感につながる
サービスを運営していると、
- 機能の追加・削除
- 利用条件や料金の変更
- サービスの一時停止や終了
といった変更がどうしても発生します。
利用規約があれば、こうした変更の際に、
「当社は合理的な理由に基づき、本サービスの全部または一部を変更・終了できるものとします」
「変更後の利用規約は当サイトに掲示した時点から効力を有するものとします」
といった形で、変更のルールや効力発生日を明記できます。
しかし、こうした定めがないまま仕様を変更したり、サービスを突然終了したりすると、ユーザーが「勝手に変えられた」「裏切られた」と感じ、炎上の原因になることもあります。
トラブル⑤:サービスへの信頼感・信用が損なわれる
最後に、利用規約がないサービスは、ユーザーから見た信頼性が低くなるという点も重要です。
たとえば、
- 「このサービス、ちゃんと管理されてるの?」
- 「トラブルが起きたとき、どうすればいいの?」
- 「個人情報を渡しても大丈夫?」
といった不安を与え、せっかくの集客チャンスや継続率を下げてしまう可能性があります。
反対に、たとえ最低限であって利用規約やプライバシーポリシーが整備されているだけで、
- 法的な整備がされている=安心
- 問い合わせ窓口がある=信頼できる
- サービスとして継続しそう
といった”運営者の本気度”とともにポジティブな印象を持たれやすくなり、導入率や利用継続率にも差が出てきます。
規約は「形式」ではなく「武器」
利用規約を作るというと、堅苦しくて面倒に感じてしまうのはわかります。
しかし、ここまで紹介したとおり、実際には、
- トラブルが起きたときに自分を守るための“盾”
- ユーザーに信頼して使ってもらうための“証”
として機能してくれる、頼もしいものでもあります。
類似するサービスからのコピペや、ネットで見つけたテンプレートで済ませるのではなく、自分のサービスに合った内容をしっかり整理することが大切です。サービスの内容、利用者層、収益モデルによって、必要な条文や記載内容も異なります。
そのため、自分たちだけで考えるのではなく、第三者からの視点として専門家の見解を取り入れたり作成を依頼することは重要であると言えます。
まとめ:最低限のルールが、サービスを守る
たとえ小さなサービスだったとしても、最低限の利用規約があるかどうかでリスクの大きさがまったく違ってきます。
「まだ規約を用意していない」という方は、まずは自分のサービスに必要な項目を洗い出すところから始めてみてください。